センター長挨拶

能登北部呼吸器疾患センター センター長

石崎武志(いしざきたけし)

本センターは能登北部地区での最新の知識と医療技術に基づく均てん化された呼吸器診療を拡充することを目的としています。そのために、能登北部地区基幹病院での呼吸器専門外来の実施と、医療者向け呼吸器疾患ケア能力向上啓発事業を実践し、能登北部地区で呼吸器疾患診療に強い医療者を育成したいと思います。

石川県医療計画資料(H25年4月作成)によりますと、能登北部圏での主要死因別・死因順位・死亡率(人口10万対)のうち、COPD死亡率は石川県内他地域と比較して4倍高く、能登中部圏のそれと比較しても2.5倍高いと報告されています。肺炎については石川県全体の114.4よりもはるかに高い197.8です。この、背景には、高齢化人口が39.7%と他地域をはるかに抜いていることと、常勤呼吸器内科医不在の2要因が隠れています。結果として、診断の遅れと適切な治療開始の遅れが呼吸器疾患の高死亡率を招いているのでしょう。石川県内の基幹呼吸器科医療施設、金沢大学病院、金沢医科大病院、石川県立中央病院等とも連携を密にして診療・教育に協力したいと思います。

地区住民の住居地とは異なる二次医療圏への流出割合も能登北部が35.9%と石川県内では最も突出しています。すなわち、遠方の診療機関受診・入院は能登北部居住の呼吸器疾患患者・家族が時間的・経済的不利益を被っていることになります。

呼吸器疾患も肺癌をはじめとして治療法の進歩で慢性の経過をたどるようになりました。患者さんのQOL,ADLを考慮した切れ目のない呼吸器ケアが医療者には求められます。

呼吸器疾患患者は増加の一途ですが、対応できる呼吸器内科医は増加していません。地域で呼吸器診療に強い若手医師の育成は、喫緊の課題です。加えて、看護師・薬剤師・理学療法士・薬剤師・保健師・介護士等と協同のチーム医療の実践も急務です。福井大在職中、私は、我が国最初の「慢性呼吸器疾患看護」認定看護師教育に幸い携わることができ、資格者の呼吸器ケア実践・指導能力に瞠目しました。福井大学大学院医学系研究科附属看護キャリアアップセンターとは協力体制を継続し、非医師職への呼吸器疾患啓発事業を能登北部でも拡充していきたいと思います。

また、私は金沢医科大学能登北部地域医療研究所にも所属していますので、地域医療を志す研修医・医学生の手助けの一環として、並存症としての呼吸器疾患を保持する在宅患者の評価法やケアについても啓発していきたいと思います。

沿革・概要

平成26年12月2日穴水総合病院内に能登北部呼吸器疾患センターとして設立。
センター長は福井大学名誉教授の石崎武志が就任。同氏は金沢医科大学地域医療研究所臨床教授、金沢医科大学呼吸器内科臨床教授、穴水総合病院内科医長も併任。
穴水総合病院を軸に、珠洲市総合病院および輪島市立市民病院にも赴き呼吸器専門外来を開設し活動を開始した。

週間予定

曜日 午前 午後
穴水総合病院内科外来 穴水総合病院内
穴水総合病院内 珠洲市総合病院専門外来・コンサルテーション
穴水総合病院内 輪島市立市民病院専門外来・コンサルテーション
穴水総合病院内 穴水総合病院内
穴水総合病院内科外来 穴水総合病院内

中間報告

38か月を経て

能登北部呼吸器疾患センターの活動状況を中間報告的に以下にまとめます。

201412月から活動開始し始め、目的の一つである地域で呼吸器疾患に強い医師を育成する手始めとして、201612月、日本呼吸器学会特定地域関連施設として認定され、呼吸器専門医取得者が1名在職しています(図1)。これも、日本呼吸器学会の理解と輪島病院関係者のご協力あってのことでした

図1.能登北部呼吸器疾患センター(カラダ大辞典,テレビ金沢作成)
 能登北部地区は図2のように、人口高齢化率が45%近くと高く、我が国の近未来の縮図です。呼吸器疾患も当然増加が予想されます。まさに、呼吸器疾患に強い医師が求められます。と同時に、若い医師にとっては呼吸器疾患の診療経験の蓄積にも役立ちます。これまで、医療相談のあった患者さんと風邪症候群を除く呼吸器疾患患者の内訳は図3のとおりで、比較的稀な呼吸器疾患(図4)も受診してこられるので研修の宝庫と言えるでしょう。15名の新規HOT利用者もいます。医療相談を通じて医療者にどんなメッセージを提供しているかというと、図5の項目ですが、なかでも最新の呼吸器診療ガイドライン・ドキュメントに沿った情報提供です。貴重な情報の宝庫である胸部画像読影については個別的な対応に終始している状態で、まだまだ、不十分と感じております。また、喘息、COPD、肺炎、肺がん、肺結核、間質性肺炎、吸入療法などのテーマで能登北部地区での医師会講演、基幹病院院内講演、薬剤師会講演などを行いました。
 図2.呼吸器内科医師不在の当該地区で呼吸器診療に精通した医師の養成(卒後教育)
 
3.能登北部3病院での初診・対診した呼吸器疾患内訳(2014.122018.7
 図4.比較的希な疾患
 5.具体的な啓発活動
ところで、平成28年の石川県医療統計が発表されましたが(図6)、呼吸器疾患に注目しますと、COPDで亡くなった方は66.5%に減少し、肺炎のそれは90.3%でした(図7)。呼吸器診療のレベルが向上したせいでしょうか?
 
 図6.平成28年の主要死因別・死因順位・死亡率(人口10万対)
図7.石川県医療計画報告によるH28/H23年増減比(%)

これまでの、能登北部医療圏での経験から感じたのは、内科系に関しては医師偏在問題は解消半ばにあるものの診療科偏在の歪が大きいことです。

つまり、呼吸器疾患以外の様々な併存疾患に悩んでいる高齢者住民への対応は、幅広い疾患の知識とさらに専門的知識を兼ね備える内科医が求められます。具体的には、総合診療に強く、それに加えて、呼吸器、消化器、循環器疾患のどれか一つに強い医師の存在が理想的です(図8)。水平的な視野の広さと重層的な視野の深さを持つドクターの誕生には、当該地区での最新医療情報共有と継続した教育環境、そして地元行政・住民の支援が不可欠と考えます。
図8.診療領域の垣根のない地域医療展開の中で最新の呼吸器ケア知識に基づく最新の呼吸ケアを展開するには
また、慢性経過をたどることの多い、呼吸器疾患のケアにはチーム医療が不可欠ですが、これには、患者さんの立場に立つチーム医療の中心となる慢性呼吸器疾患看護認定看護師(CRCN)の活躍が大なる助けとなります。現在、石川県内には13名のCRCNが活動しており、連携し、研修会も開いていますが、能登北部地区にはまだ0人です。関係看護部と協力して育成できればと意欲にある看護師さんを求めています。