一般の方へ

呼吸器は空気中の酸素を体内に取り入れて、体内の二酸化炭素を外に排出する役割を持つ、ガス交換器です。これを換気機能といいます。私たちが眠っている間も絶えることなく換気の仕事は続けられます。呼吸器は気管(支)、肺、胸膜、血管、縦隔で成り立っていますので、これらの組織がさまざまな原因で障害を受けますと、咳、喀痰、息切れ、胸痛、喀血、むくみなどの症状が出てきます。息切れ、呼吸困難という症状は換気の働きがうまくいかないことを示唆しますので、呼吸器の病気の程度がある程度重いといえます。

呼吸器は絶えず外気と接触していますので、PM2.5などの大気汚染物質に曝されますし、ウイルス・細菌などの病原性微生物も吸い込みます。タバコ喫煙者は、自ら汚染物質を吸い込み続けることになります。

もちろん、免疫系も呼吸器では発達していて、これらの異物を排除し、組織修復機能も健全に働いていますが、年齢を重ねますと、免疫系の働きも弱り、組織修復機能も低下してしまいます。超高齢者の方の肺炎がしばしば命取りになるのもその理由です。また、タバコ喫煙者はこれらの抵抗力が既に弱まっています。

以下、主な病気について概説しましょう。さらに、詳しい知識を求められる方には一般社団法人日本呼吸器学会のホームページ(http://www.jrs.or.jp)の「市民のみなさまへ」をクリックしますと詳しい説明をご覧になれます。

主な病気

COPD(慢性閉塞性肺疾患)
これまで、肺気腫あるいは慢性気管支炎と呼ばれた病気です。わが国では長期タバコ喫煙者にみられ、タバコ煙の有害成分による慢性炎症が(細)気管支と肺胞を障害します。その結果空気の出し入れがうまくいかず、低酸素血症となり、息切れ、呼吸困難を感じます。咳や喀痰も認めるようになります。肺機能検査と胸部CT検査が診断に有用です。禁煙が治療の第1歩ですが、気管支拡張作用のある吸入剤や呼吸リハビリテーションが有効です。
気管支喘息
夜間・早朝に、息をする際にヒイヒイ、ゼイゼイと音(喘鳴といいます)がして、息苦しくなる病気です。ダニやハウスダスト、猫や犬のふけ等を吸入することによって気管支の慢性炎症が生じるためですが、息苦しさのほかに咳、喀痰も加わります。診断は聴診器で喘鳴を聴取することや、気管支拡張剤吸入によるすみやかな症状消失です。治療薬の基本は吸入ステロイドです。
肺癌
肺癌の70%はタバコ喫煙が原因です。初期には症状もなく、進行してはじめて、咳、喀痰、血痰、胸痛、倦怠感などが現れますので、早期診断と早期治療が求められます。胸部Ⅹ線写真、胸部CTが診断手段です。肺癌には種類があり、進行のステージとの組み合わせで、外科療法・化学療法・放射線療法が選択できます。
間質性肺炎
肺の肺胞壁が炎症を起こして線維性の肥厚を生じる病気です。肺が硬くなって縮み、低肺機能となり、低酸素血症となります。痰を伴わない空咳と息切れ症状が現れます。原因が不明であったり、膠原病に伴うこともあり、また、薬剤が原因の場合もあります。聴診器で髪の毛のこする音を聴取すれば間質性肺炎をまず疑います。肺機能検査と胸部CT、血液検査が診断手段です。
肺炎(誤嚥性肺炎含む)
肺の最深部の肺胞まで病原微生物が侵入して炎症を起こすのを肺炎といいます。健康成人は免疫抵抗力が備わっており、簡単に肺炎になるわけではありません。ただ、過労状態が続いたり糖尿病などの慢性成人病を持っていたりした場合や老化で肺の免疫抵抗力が落ちますと、容易に肺炎になります。肺炎で亡くなる人の94%は75歳以上の方です。症状は発熱、咳、喀痰、食欲低下、疲労感などで、胸部X線検査で診断できます。
嚥下機能障害がありますと、口腔内の唾液に細菌が紛れ込んで、肺に流れ込み誤嚥性肺炎を発病します。症状もはっきりしなく、周りの人が、なんとなく元気がないなど、日ごろと違う感じを待たれて受信される場合が多いです。
抗菌剤を用いた治療が原則です。肺炎にはインフルエンザウイルスなどのウイルスによるものや、アスペルギールスなどの真菌によるもの、薬剤によるもの、放射線治療によるものなど沢山ありますので、要注意です。
肺結核
結核菌の侵入によつて感染します。が、発病は感染者の10~15%です。ヒトからヒトへ感染する空気感染症で、ゆつくりと、咳、喀痰、疲れやすい、微熱などの症状がでますので、しばしば、発見が遅れます。わが国では、年々、発病者は減少していますが、それでも、約2万人が毎年発病します。診断は結核菌を喀痰や胃液などから発見することですが、結核菌の発育はゆっくりとしていて、培養結果は4~6週間かかります。最近はIGRAという補助診断法も導入されています。幸い、薬物治療法が確立しています。
非結核性抗酸菌症(NTM)
非結核性抗酸菌は土や水などの環境に存在しています。中高年女性に多いと言われています。結核菌とは異なり、ヒトからヒトへの感染能力はありません。万が一、感染しても、通常は、ゆっくりと進行しますので、症状も、進行して初めて、咳、喀痰、息切れ、発熱、体重減少などが現れます。胸部CT検査と喀痰塗抹・培養検査を用いて診断します。
気管支拡張症(びまん性汎細気管支炎含む)
気管支の一部が途中で内径が大きくなっている状態です。その部位の粘膜バリアーの働きが落ちていて、しばしば、細菌感染の温床となります、発熱、咳、膿性痰、時に喀血などの症状が現れます。気管支拡張症の方には慢性副鼻腔炎を合併する場合があります。また、(呼吸)細気管支が慢性的に炎症を起こして閉塞し、呼吸困難、喀痰、発熱が見られた場合はびまん性汎細気管支炎と考えられます。いずれも、胸部CT検査で特徴的な所見が得られます。抗菌剤療法が有効です。
サルコイドーシス
原因不明の炎症が全身におよびます。組織採取するとサルコイドーシスに特徴的な肉芽腫を見つけることができます。ほとんど症状がない場合が多いですが、目が障害され、ぼんやりかすんで見えたり、小さな物が飛んでいるような症状や、心臓が障害されて不整脈が出る場合もあります。
じん肺(アスベスト肺含む)
遊離ケイ酸やケイ酸塩を慢性的に吸入して生ずる、肺の線維化がすすむ病気です。この病気は、トンネル工事や陶器製造業、さらにアスベスト断熱材を使用する職業従事者にみられます。離職しても、ゆつくり進行して、息切れ、咳、喀痰、胸痛などの症状がでます。極く、一部の方に肺がんや胸膜悪性中皮腫が合併しますので、要注意です。診断は、相当する職業歴と胸部画像検査によつて行われます。
肺血栓塞栓症
主に下肢の静脈内で血液の流れが滞り、固まったものが肺動脈まで流れてきて肺動脈に詰まることによって生じます。突然、起こることが多く、呼吸困難や失神が急に現れ、死亡することもあります。長時間、座ったまま旅行したり、炎天下での作業で脱水状態になったりしますと招きやすいです。
肺高血圧症
本来、低圧系の肺動脈圧が上昇して、右心室の負担が増加して、対応できなくなる病態です。原因は多彩ですが、呼吸困難、むくみ、めまいなどの右心不全症状が現れます。薬物療法がめざましく進歩しています。

年間行事

2015年3月12日
2015年5月9日
呼吸の日
2015年8月1日
肺の日