医療関係者の方へ

わが国では、人口の高齢化に伴い、増加する肺癌、COPD,間質性肺炎、肺炎(誤嚥性肺炎含)、気管支喘息、睡眠呼吸障害等の呼吸器疾患が急増しています。にもかかわらず、ここ10年、呼吸器専門医は増加せず、その呼吸器専門医も大都市の大病院に集中しているのが現状です。日本呼吸器学会将来計画委員会報告書(平成24年4月作成)によれば、呼吸器疾患患者受診率は、入院・外来ともに循環器疾患や消化器疾患患者と同等であり(資料1)、決して、少ないわけではありません。また、病院当たりの呼吸器科専門医の数とCOPD気管支喘息死亡者数とは逆相関します(資料2,3)。平成24年12月時点での臓器別診療医数は呼吸器内科13,158人、循環器内科22,700人、消化器内科29,928人と呼吸器内科医は後2者の半数です。必ずしも専門ではない一般内科医あるいは総合医が呼吸器診療の負担を強いられているであろうと推察されます。

呼吸器疾患は慢性の経過をたどることが多いので患者へのケアは長期に渡り、患者のQOLはともすれば悪化しやすいので切れ目のないケアと生活指導が必要となり、看護師・薬剤師・理学療法士・保健師など多職種によるチーム医療が求められます。チーム医療のファシリテーター役と期待される「慢性呼吸器疾患看護」認定看護師制度が日本看護協会から第21番目の認定看護認定教育コースとして認可され、私は福井大学でこの教育コースを関係スタッフとともにわが国で最初に立ち上げました。平成27年1月現在171名がこの資格を得て、全国で活躍し始めましたが、石川県では10名がこの資格を得て呼吸器疾患の最新の病態生理・治療法・看護ケア技術を生かし職場で活躍しています。が、能登北部地区ではまだ、1名もこの資格を有する呼吸器専門性の高い看護師は存在しません。この「慢性呼吸器疾患看護」認定看護師は呼吸器専門医不在の地域でも患者や同僚看護師の医療相談・看護実践・指導に期待されています。

石川県医療計画資料(平成25年4月作成、資料4.)によれば、能登北部圏での主要死因別・死因順位・死亡率(人口10万対)のうち、慢性閉そく性肺疾患死亡率は石川県内他地域と比較して4倍高く、能登中部圏のそれと比較しても2.5倍高いです。肺炎についても石川県全体の114.4よりもはるかに高い197.8です。この背景には診断の遅れと適切な治療開始の遅れとが隠れているでしょう。また、住居地とは異なる二次医療圏への流出割合は能登北部が35.9%と県内では最も突出して高いので、呼吸器疾患患者も同様の傾向と推察されます。能登北部地区での呼吸器診療が充実すれば、遠方の診療機関受診頻度・入院頻度を減少させることによって、能登北部居住の呼吸器疾患患者の不必要な時間・経済的不利益を解消することができるでしょう。

呼吸器疾患患者の受診率の比較

病院当り呼吸器専門医数と気管支喘息死亡者数の関係

病院当り呼吸器科専門医とCOPD死亡者数の関係

地域の状況

主要死因別 死因順位・死亡率(人工10万人対)

死因順位
(H23年)
死因 H12年 H17年 H22年 H23年 H23年(圏域別) 23年[参考]
死因順位
(H23年)
死因 石川県 南加賀 石川中央 能登中部 能登北部 全国
第1位 悪性新生物 246.0 265.8 288.7 298.5 307.9 259.4 390.6 491.1 283.2
心疾患 127.9 151.6 156.7 165.8 168.9 134.1 228.3 356.0 154.5
肺炎 83.7 95.9 108.8 114.4 109.1 102.5 143.5 197.8 98.9
脳血管疾患 110.6 106.1 107.3 106.2 116.1 87.2 150.2 184.2 98.2
老衰 17.0 19.0 40.1 45.8 48.1 29.8 122.4 57.3 41.4
不慮の事故 37.8 34.2 42.3 40.2 46.8 31.1 60.8 72.3 47.1
自殺 20.4 22.7 22.5 22.6 20.4 20.9 25.5 40.9 22.9
賢不全 9.1 14.8 17.2 19.7 23.8 14.3 33.8 34.1 19.4
大動脈瘤及び解離 6.8 7.3 13.1 13.6 13.9 13.6 12.0 12.0 12.4
10 慢性閉塞性肺疾患 13.3 12.7 14.0 12.5 11.7 9.3 15.8 40.9 13.2
11 糖尿病 10.3 11.0 10.9 11.5 11.7 9.2 20.3 17.7 11.6

資料:「衛生統計年俸」(石川県健康福祉部)、「人口動態統計」(厚生労働省)

特定死因死亡率の年次推移(石川県)

資料:「衛生統計年俸」(石川県健康福祉部)

今後の予定と目標

  1. 能登北部地区医師会・薬剤師会での講演・実習
  2. 能登北部地区(珠洲、輪島、穴水)基幹病院での院内講習会(研修医・看護師・薬剤師・理学療法士対象)
  3. 能登北部地区保健師会での講習会(結核・抗酸菌感染・タバコ禁煙など)
  4. 能登地区市民公開講座(主な呼吸器疾患の予防・知識など)

到達目標

  1. 能登北部地区での呼吸器疾患患者のpremature deathを減少させる(平成25年度石川県庁資料に記載された主な呼吸器疾患死亡者の減少)
  2. 能登北部地区からの呼吸器疾患患者の金沢地区への転送数の減少
  3. 能登北部地区での慢性呼吸器疾患看護認定看護師の誕生と活躍
  4. 能登北部地区での呼吸器専門医の誕生と活躍